ST合剤の予防内服はPCP以外も予防するのか

内科

ST合剤の予防内服を受けている腎移植レシピエントの発熱において「UTIは鑑別に」上がるのか、ということが議論になり調べてみたのでまとめておきます。

ST合剤を予防内服しているのはどのような場合か

ST合剤の予防内服を行っている患者は大きく分けて以下の4つに分けられると思われます。

  1. HIVの治療を受けている
    CD4が200を切っているか(切りそうな場合も)、14%を下回っている場合に考慮せよとなっています。
  2. ステロイドの長期内服
    PSL換算で20mg以上を1ヶ月以上内服している(もしくは確実に内服する)患者に関しては開始するように勧められています。
  3. 臓器移植後
    肝臓や腎臓といった固形臓器の移植を受けた場合は免疫抑制剤を内服しており(CNI(カルシニューリン阻害剤)、MMF(ミコフェノール酸モフェチル)、PSL(プレドニゾロン)の3剤が現在のコアドラッグ)、ST合剤の予防内服を移植後6〜12ヶ月継続するのが一般的とされています。
  4. 血液腫瘍やそれにまつわる免疫抑制を受けている場合
    こちらは専門性が高く個々の事例は省略します

上記のような患者さんの場合はST合剤(バクタ®)が処方されていることが多いです。

ST合剤とは?

グラム陽性球菌では肺炎球菌・黄色ブドウ球菌、グラム陰性桿菌では緑膿菌を除く大部分の腸内細菌科に効果があります。またグラム陽性桿菌ではリステリア・ノカルジア、グラム陰性球菌では髄膜炎菌・モラキセラをカバーします。一方,嫌気性菌には活性がありません。
このような特性から、ST合剤は3世代セフェムのセフトリアキソンと似たスペクトラムと考えると分かりやすいでしょう。消化管からの吸収が良いのも利点の1つです。
その他、院内感染症やCA-MRSAなどでも使われますしPCPの治療のコアドラッグでもあります。
一方で皮疹や消化器症状などから使いにくいと考える医師もいます。

ST合剤をPCP予防に内服していれば他の細菌感染症も防げるのか

では今回の本題に入ると、上記のような広域スペクトラムから「PCPの予防」を目的に内服するとは言え多くの感染症に効果があるのでは、と考えるのは自然な気がします。

腎移植患者545人を対象とした6件のランダム化試験のメタアナリシスでは、予防抗菌薬の投与(ほとんどがST合剤)による敗血症および血流感染の減少(RR 0.13, 95% CI 0.2-0.7) および細菌尿の減少(RR 0.41, 95% CI 0.31-0.56) に貢献したとされています。RR0.13は驚異的です。一方で症候性UTIや腎盂腎炎のリスクへの影響は不明です。(PMID:21521435)
長期に内服すると耐性菌が悪さをするのではないかという懸念もありますが耐性菌が極端に増えたという報告はない、というのが現在の立ち位置のようです(PMID:16842531)
しかし他のST合剤を内服する患者さんがどの程度細菌感染症を防げるかのデータはあまりないようです。

結論としてはST合剤を内服中の患者さんは菌血症などPCP以外の細菌感染の予防効果もある程度持っている可能性が高い。が、確固たるデータはない、ということになりそうです。

  • ST合剤内服中の患者さんは菌血症などは起こしにくい。
  • 特に腎移植後の患者さんのUTIなどを過度に心配する必要はなさそう。
  • しかしST合剤内服中ということは何らかの免疫抑制状態であるので注意深い診療が必要なのに変わりはない。

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