救急外来における出血性梗塞のマネジメント

内科

救急医は脳梗塞急性期の患者をマネジメントすることが多いのですが、時折、亜急性期の脳梗塞患者の来院もあります。その際、出血性梗塞となっていたときマネジメントに慣れていない救急医は途端に困ってしまうのでこちらに簡単にまとめておきます。

モデルシナリオ:7日前に発症しためまいで5日前に受診したが対症療法で帰宅となった。その後自宅で過ごしていたがめまいも持続するため救急搬送となった。CTでは小脳虫部に浮腫性変化と出血を認めた。MRIではDWI(b-1000)高信号・ADCmap低信号となっており、その中心に出血を認め出血性梗塞と診断した。抗血栓薬の開始や血圧管理はどうすればよいか?

そもそも出血性梗塞とは?

出血性梗塞とは、静脈血栓症・動脈血栓症・塞栓症後に発生する出血性変化を指し、急性脳梗塞の18〜42%に発症すると言われています(PMID:21030711)。出血したタイミング(と思われる時期)で少し症状が悪くなった、という患者が多いため階段状の悪化のような病歴がとれます。日本語は出血性梗塞ですが英語で検索する際はHemorrhagic Transformationという言葉が適しており出血性変化、というのが適切なのかもしれません。虚血によるBBBの破壊が関与しているとされています。
出血性梗塞はCTにおいてECASSによって2つの種類に分けられそれぞれの種類が2段階の重症度に分かれています。周囲の出血(HI)は比較的早期に出現し軽症で落ち着きますが、実質内出血は比較的遅く起き、神経学的予後にも悪い影響を与えるようです。

出血性梗塞の分類(PMID:34917010)
(https://www.researchgate.net/profile/Tibor-Hortobagyi/publication/323222772_Hemorrhagic_transformation_of_ischemic_stroke/links/5ace0aa1aca2723a33419626/Hemorrhagic-transformation-of-ischemic-stroke.pdf より引用)

出血性梗塞のリスクとして、疫学的要因(年齢、治療前の全身状態など)、梗塞の特性(虚血のサイズ)、急性期の再灌流療法(血栓溶解療法か機械的血栓除去かその両方か)、急性期後の抗血栓薬の使用などが知られています。

出血性梗塞の経過

出血性梗塞における抗血栓療法は?

脳梗塞の薬物治療は可能ならtPA、塞栓症は抗凝固薬(ワーファリン、DOAC)、血栓症は抗血小板薬というのが柱ですが出血性梗塞を呈した場合は急性期には中断が望ましいとされています。抗凝固薬は拮抗を考えましょう。抗血小板薬も中止がよいと思われます。
しかしながらこれらの治療方針では確固たる根拠となる論文が出ていません。tPA療法中の脳出血に関しても適切な凝固の管理(血小板は10万以上、など)、という文言にとどまっております。抗血栓薬の再開時期は抗血小板薬は血腫の拡大がなければ7日、抗凝固薬は2-4週間程度と言われております(これは出血性梗塞のデータと言うより内服していた人が脳出血を発症した際の一般的な再開時期)。
そうしたことからひとまず現在は、救急外来の初診で出血性梗塞であった場合は、二次予防としての抗血栓薬は開始せず入院、が正解と思われます。

血圧管理は?

通常脳梗塞では血圧降下は必要ありませんが出血性梗塞の場合は目標血圧はどう設定すればよいのでしょうか。これも実は質の高い研究はなく、決まった数値がないため脳外科医と合意形成をするのが望ましいとされています。
治療目標は虚血領域に十分な血流を供給し、自己調節障害下の脳への灌流圧障害を軽減し、最終的に血腫拡大のリスクを減らすこと、なのですがこれは1つの数値で代表されるものではないのは容易に想像できます。救急外来に来た時にすでに出血性梗塞となっている患者は血管の再開通がなされていないという前提で160mmHg以下を目指すのが無難な戦略と考えられます(PMID: 28130682)。

・出血性梗塞を呈してくる亜急性期の脳梗塞患者に注意

・抗血小板薬や抗凝固薬は初期では開始しない

・血圧は160mmHg以下が無難なようだが確固たる根拠はない

自己学習のために

この記事は本当に表面的なことをまとめたため詳しく勉強したい方は。。

Stone JA, Willey JZ, Keyrouz S, Butera J, McTaggart RA, Cutting S, Silver B, Thompson B, Furie KL, Yaghi S. Therapies for Hemorrhagic Transformation in Acute Ischemic Stroke. Curr Treat Options Neurol. 2017 Jan;19(1):1. doi: 10.1007/s11940-017-0438-5. PMID: 28130682.
よくまとまっているが有料

Hong JM, Kim DS, Kim M. Hemorrhagic Transformation After Ischemic Stroke: Mechanisms and Management. Front Neurol. 2021 Nov 30;12:703258. doi: 10.3389/fneur.2021.703258. PMID: 34917010; PMCID: PMC8669478.
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