救急外来では「ケガ」が多いため縫合処置が数多くあります。その際に滅菌手袋を使うか非滅菌の手袋なのかは組織の文化に依存するところが大きいと思います。手術室では滅菌術野で手術が行われるので当然閉創も滅菌手袋なのですが、救急受診する創部はそもそも受傷した時点で創部が汚染され滅菌環境ではありません。そんな創部の処置に滅菌の道具を使う必要があるのでしょうか。
オランダで行われた多施設RCT
今回の研究はオランダの3つの施設で行われたランダム化比較試験です。非劣性試験ですので注意が必要です。非劣性マージンは2%に設定されています。
滅菌群では滅菌手袋、滅菌ガーゼ、滅菌ドレープを用い非滅菌群では非滅菌の手袋と非滅菌のガーゼを用いました。
主要アウトカムは創傷感染で、フォローアップまでに生じた、創傷に由来する膿瘍、10mmを超える蜂巣炎、膿性液の排出、創傷剥離、を感染と定義しています。各群の患者の特徴は以下の通りです。
結果は目標とするサンプルサイズに届かないまま早期終了しています(残念!)。感染率の差が−1.1% (95% CI −3.7% to 1.5%)と、非滅菌のほうが低い!(有意差なし)となりました。各群の感染率も滅菌群6.8% (95% CI 4.0% to 7.5%) vs 非滅菌群5.7% (95% CI 5.1% to 8.8%) と従来の研究と同等の水準です。
これが全ての真理、ではありませんが非滅菌手袋での処置に対する力強い後押しと言えると思います。
解釈の注意
こういった研究では除外基準と組入基準を把握するのが重要です。
外傷が複雑な場合=骨、血管、腱、神経、軟骨の損傷を伴うものは除外されています。骨や腱、軟骨などは感染に弱いため感染の可能性を極力無くすように努力したほうがいいのでこういった場合は滅菌手袋が理にかなっていると思います。同様の理由で関節損傷があったり中縫い(筋膜縫合)などをする場合は個人的には滅菌手袋をしています(中縫いの有無は本試験では除外基準ではない)。その他の除外基準は、人または動物の咬傷、手術室へ直接入室したもの、受診時にすでに感染していた場合、創傷後24時間以上経過した場合となっています。
また、創部処置の両群でクロルヘキシジンによる消毒が行われたのは驚きでした。自分は水道水での洗浄以上の消毒をしていなかったからです。創部処置時の皮膚消毒がが必要なのかはこの研究からは分かりません。
また、もう一つの注意事項は2468人の組入患者候補から968人が除外されているという除外率の高さでしょう。除外患者のうち半数は437人は同意が得られなかったことが理由となっています。ここからは管理人の推測になりますが同意が得られなかった理由は“非滅菌で処理されるかもしれないという患者の忌避感ではないだろうか”と予測します。本論文のディスカッションにおいても”On the other hand, while untested, the sterile suturing technique may provide reassurance for the patient which may also be of value, even if the non-sterile technique confers no greater risk of infection.”と言及されておりそういう要素はあるのでしょう。やはり滅菌で処置される安心感というのは確かにあるのだと思います。自分は実臨床でも水道水と非滅菌手袋で処置していますが、水道水で洗いますとは言わずに「きれいな水で洗いましょう」と言うようにしていますし、医療者がしばしば言ってしまう不潔(=非滅菌)な手袋、不潔(=非滅菌)ガーゼとは絶対に言わず、きれいなガーゼ、と言うようにしています。やはり不要な心配を抱かせないコミュニケーション力は重要ですよね。
- 創部の縫合時に十分な洗浄をして皮膚消毒すれば手袋は滅菌でも非滅菌でも感染率は変わらない
- 皮膚消毒などが不要かは不明
- いずれにしても非滅菌の処置、ということで患者が不安を抱かないようなコミュニケーションは重要
元文献はこちら(EMJにしては珍しくフリーアクセス!!)
Zwaans JJM, Raven W, Rosendaal AV, Van Lieshout EMM, Van Woerden G, Patka P, Haagsma JA, Rood PPM. Non-sterile gloves and dressing versus sterile gloves, dressings and drapes for suturing of traumatic wounds in the emergency department: a non-inferiority multicentre randomised controlled trial. Emerg Med J. 2022 Sep;39(9):650-654. doi: 10.1136/emermed-2021-211540. Epub 2022 Jul 26. PMID: 35882525.
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