2022年10月のNew England Journal of Medicineに2つの研究が中国から発表されました。
脳底動脈閉塞患者に対する血管内治療の効果はBEST trial(Lancet Neurol. 2020 Feb;19(2):115-122.)やBASICS trial(N Engl J Med 2021; 384:1910-1920)で良好なアウトカムにつながる可能性が示唆されていたものの有意差は示せていませんでした。そこで、中国の研究グループがまたまた発表したのが今回の2つのRCTです。
ATTENTION trial
発症から推定12時間以内の脳底動脈閉塞患者を血管内治療と内科治療へ2:1で割付けた多施設ランダム化比較試験です。
90日時点での良好な機能予後(modified Rankin scale 0-3)の割合は、血管内治療群46%、対照群23%でした。一方で、症候性脳出血は血管内治療群でのみ発生し(5%)、血管内治療群の14%で手技・操作に関連する合併症が発生しています。(1名が死亡)90日死亡率は血管内治療群で37%、対照群で55%でした(リスク比 0.66)。
BAOCHE trial
一方でこちらは発症から6~24時間の脳底動脈閉塞患者を、内科的治療+血管内治療と内科的治療単独へ1:1で割り付ける多施設ランダム化比較試験でした。
良好な機能予後(modified Rankin scale 0-3)の割合は、血管内治療群46%、対照群24%でした。一方で、症候性脳出血は血管内治療群の6%、内科治療の1%で発生し(5%)、血管内治療群の11%で手技・操作に関連する合併症が発生しています。(1名が死亡)90日死亡率は血管内治療群で31%、対照群で42%でした(リスク比 0.75(有意差なし))。
本試験には大きな特徴があり、それは試験の途中でprimary outcomeが変更となっていることです。
本文中の抜粋からは2021年2月23日に90日後のmRSが0~4点から90日後0~3点へ変更したとのことです。その理由は冒頭のBEST trial(Lancet Neurol. 2020 Feb;19(2):115-122.)やBASICS trial(N Engl J Med 2021; 384:1910-1920)からとのことでした。その詳細なプロセスは分かりませんが従来のprimary outcomeで解析していると有意差は出ていないのが気になるところです。
2つの研究は臨床をどう変えるか
血管内治療の安全性はデバイスのシンポなどとともに進化しており手技関連の合併症は15%程度と「治療」としては高いものですが徐々に下がってきています。また、技術も進歩しており、従来はあまり高くなかった後方循環系の血栓回収において今回は研究は2つとも再開通率は90%を越えています。
それによりmRSだけでなくEQ-5D(よく用いられるQOLの指標)も改善を認めています。
気になる点としては血栓溶解療法を施行された例がATTENTIONでは20%未満であり、BAOCHEでは発症後6時間の患者でありながら同等の比率に投与されていることなどプロトコールが日本と異なる(もしかしたら国際的な標準とも異なる可能性がある)ことでしょうか。
血栓溶解療法と血栓回収の併用の有効性は後方循環系ではまだはっきりとしておらず前方循環においても揺れ動くevidenceが出ている最中なのでこれは今後の研究を待つ必要があるかもしれません。
一連の後方循環系の脳梗塞に対する血栓回収に関する研究はほとんど単一の研究グループがだしているようなものなのでもう少し妥当性検証が必要なところですがRCT組めていることなどからは中国の勢いを感じます。
- 後方循環系の脳梗塞に対する血管内治療は良好な神経学的予後と関連している可能性がある。
- NIHSSでは後方循環系の閉塞を上手く評価できていないので適応は慎重に選択するべきだが時間的猶予や長いのかもしれない(もしかしたら発症24時間まで?)
- 血栓溶解と併用するかは今後の研究を待つ
- 研究グループが偏っているのでもう少し他の研究がほしいところ
今回の文献
N Engl J Med 2022; 387:1373-1384. DOI: 10.1056/NEJMoa2207576
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2207576
N Engl J Med 2022; 387:1361-1372. DOI: 10.1056/NEJMoa2206317
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2206317
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