救急外来における低Na血症の補正のヒント~SALSA trial~

内科

低ナトリウム血症は遭遇頻度の多い電解質異常ですが、電解質異常の中でも原因検索が複雑で原因によって補正の戦略も異なることから苦手意識をもつ救急医も多いのではないでしょうか。
原因検索は別の機会にまとめるとして今回は補正の方法を考えてみたいと思います。

急いで補正を考える患者は急性で重症な低Na血症の患者であることは各種ガイドラインで推奨されています。重症の定義はさまざまで嘔吐が含まれていたりいなかったり一定の見解はありませんが有症状でその症状が強く、もしくは意識レベルの低下が著しいとき、となるかと思います。

低Na血症を救急外来で補正する際には高張食塩水を用いることになりますがどのように用いるのか、というのが今回紹介するSALSA trialの内容です。

SALSA trial

今回紹介するのは

Risk of Overcorrection in Rapid Intermittent Bolus vs Slow Continuous Infusion Therapies of Hypertonic Saline for Patients With Symptomatic Hyponatremia: The SALSA Randomized Clinical Trial (JAMA Intern Med. 2021;181(1):81-92.)

です。高調食塩水をボーラスで間欠投与するのと持続投与するのはどちらが安全かというのを検証した試験になります。

今回の論文では、韓国の3つの医療機関で実施され、救急外来を受診した中等症以上の症状のある血清Na濃度 125 mEq/以下の成人が対象となっています。中等度の症状には、吐き気、頭痛、眠気、全身脱力感、倦怠感があり、重度の症状として嘔吐、昏迷、痙攣、昏睡(GCS8以下)が挙げられています。
主な除外基準は心因性多飲症,妊娠や授乳中,無尿,低血圧,肝疾患,コントロール不良の糖尿病,心臓手術歴,心筋梗塞や重症不整脈の既往,頭部外傷や頭蓋内圧元進,偽性低ナトリウム血症です。

アウトカムは本来浸透圧性脱髄症候群(ODS)が重要な転帰になるのでそれ単独でやりたかったようですが発生頻度が低いため、以下に設定されています。

・安全性:過剰補正(入院24時間以内に12 mEq/以上,入院48時間以内に18 mEq/L以上)の発生,ODSの発生
・効果:24時間後や48時間後の症状の残存,目標値に達成するまでの時間や達成

介入方法

・両群に使用される高張食塩水の濃度を3%とし、入院2日目まで6時間おきに血清Na値を測定しました

・介入群では初回に2ml/kgのボーラス投与を行っています。入院初日は血清Na値が5mEq/L上昇していない場合または症状が持続する場合にボーラス投与を追加し、入院2日目はベースラインから10 mEg/I 上昇していない場合または症状が持続する場合にボーラス投与を追加しています。

・対照群では初回に0.5mL/kg/時の持続投与を開始し、入院1日目は血清Na値が5mEq/L上昇していない場合または症状が持続する場合に速度を0.25 mL/kg/時増加しました。入院2日目はベースラインから10mEq/L上昇していない場合または症状が持続する場合に速度を増加しています。

結果

研究に組み入れられた178人の患者の内訳は

  • 平均年齢73.1歳,男性44.9%
  • 平均血清Na値は118.2 mEg/L,中等症が75%
  • 原因はサイアザイド系利尿薬 29.8%,抗利尿ホルモン不適切分泌29.2%,副腎不全16.3%.

となっています。転帰に関しては、

・過梨補正は介入群17.2%,対照群で24.2%で、絶対リスク差は-6.9%(95%CI -18.8%~4.9%, p = 0.26)でした。24時間後や48時間後の症状の残存率や目標値に達成するまでの時間は両群で変わりなく,ODSの発生は認めていません。1時間以内の目標達成率は介入群で高いという結果でした。(32.2% vs 17.6%, p = 0.02)

結論として症候性低ナトリウム血症に対する高張食塩水の間欠ボーラス投与法は、持続投与法と比べ安全性に差はない。となっています。

紺色がボーラス群、オレンジが持続群です

この結果が救急外来でどう生きるのか

この研究に注目した理由は、救急外来における低Naの補正をボーラスで開始する一つの根拠となりえると考えたからです。ボーラスは過補正などの懸念から賛成反対の立場が施設やここの医師によって異なる印象があります。カジュアルにという人もいれば、過補正で痛い目にあっている人はそんな危険なことを、という人もいます。それは表裏一体で有症状患者にボーラスしないと「なんでしないの?」と言われたり、したらしたで「そんなの救急外来でいきなり」と言われたりもして困った経験をした方もいるのではないでしょうか。

重症の定義が定まっていないというのも難しさの一因で救急外来で治療開始の判断基準がそもそもあいまいです。

しかし本研究では中等症以上の患者にはボーラスで治療しても成績が変わらなかったことをもって、救急外来でひとまずボーラスで治療開始しました、ということが正当化される一つの根拠になると考えます。(少し言いすぎかもしれませんが)そのため、本研究は救急医が知っておいて損はないものと思われます。

批判的吟味

韓国で行われた研究ですのでアジア人が多く含まれているのは外挿性を高める前向きな因子です。RCTでもあり交絡も少ないと思われます。

大きな弱点として管理人が気になったのはサンプルサイズ計算です。

サンプルサイズの算出
ODSは非常に重要なハードアウトカムであるにもかかわらず、その発生率は非常に低いため、ODSのリスクとなる24時間以内に12mmol/L以上または48時間以内に18mmol/L以上の過補正の割合を主要アウトカムとして計算した。最近1年間の予備検査で、SCIによる過補正割合が32%であることを確認したが、間欠的ボーラスによる過補正割合を推定できる情報はなかった。そこで,RIBでは5%,SCIでは20%の過補正が発生すると仮定した。脱落率15%、両側有意水準α=0.05、検出力80%として必要なサンプル数を算出したところ、χ2検定で有意差を求めるには各群89人(合計178人)が必要であることがわかった。

というのがサンプルサイズの根拠となる記述ですが、ボーラス群の過補正が5%と見積もったのは低すぎなのでは?(持続が20%なのに)という気がします。そのためサンプルサイズが極端に小さく見積もられてしまい、結果として差が出なかった可能性は拭い去れません。そういう目で見てみるとボーラス群は死亡が少し多く、サンプルサイズが増えていった時にどのような結果になるのか不明です。

  • 救急外来で中等症以上の低Na血症には3%食塩水のボーラスで治療開始は安全である可能性が示唆される。
  • 当然除外基準にあるような原因の場合は分からないので低Na血症の原因検索を怠ってはならない
  • 持続に比べて入院前に一度トライできるという簡便さと反応の確認がしやすいことから救急外来でゆったり持続を開始するよりボーラス1回は救急医向きかもしれない

今回の論文

Risk of Overcorrection in Rapid Intermittent Bolus vs Slow Continuous Infusion Therapies of Hypertonic Saline for Patients With Symptomatic Hyponatremia: The SALSA Randomized Clinical Trial

JAMA Intern Med. 2021;181(1):81-92.  doi:10.1001/jamainternmed.2020.5519

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