画像下治療(IVR)における鎮静鎮痛の考え方

IVR

画像下治療とは?

Interventional Radiologyの呼称は日本ではIVRという用語がよく用いられる。しかしIVRという略称は国際的には標準的ではなく、一般的にはIRと略されることが多い。日本IVR学会はIRの日本語名称を画像下治療と定義しているがこれも十分に普及しているとは言い難い。本稿では国内で一般的に使用されているIVRという用語を用いることとする。一般的にIVRというと透視下の血管内治療というイメージがあるかもしれないが実際にIVRがカバーする手技は多岐にわたる。具体的には一般的な透視下の血管内治療だけでなく、透視下やCTを用いた非血管系のドレナージ(胆道など)や生検、ラジオ波のよる焼灼や凍結療法など多岐にわたる。そこでIVRの手技の特性を考えた鎮静鎮痛の方法に関して概説する。

IVRの治療の特徴を分類する

IVRの手技は多岐にわたるため手技ごとに治療の特徴が異なるが、鎮静鎮痛の方法を考える際に考慮すべき要素は次の4つである()。

・無動化や患者の協力がどの程度必要か

これは主に鎮静の深度や方法に関わってくる要素となる。腹部領域の血管造影はDSAという方法で撮像することが多いため息止めが必要となる。そうすると患者が医師の指示に従って息を吸ったり吐いたり止めたりする程度の意識レベルを保つ必要がある。呼吸の協力はCTガイド下の生検や経皮経肝胆道ドレナージなどでも必要となってくる。一方で頭部の血管造影は不用意な体動や些細なあくびなどの動作が血管操作の妨げになったり血管攣縮を惹起するため指示に従って呼吸を合わせる必要はないが姿勢をたもったまま僅かな体動も許されない状況となるためそれはそれで患者の苦痛につながる。

・痛みを伴う処置かどうか

これは鎮痛の強度に関わってくる要素となる。痛みは主に穿刺など治療へのアクセスルートの確立における痛みと手技そのものの痛みに分けられる。穿刺などのアクセスルートの確立における痛みは血管内治療におけるシースの挿入などが一般的であるが、経皮経肝胆道ドレナージの際や、生検時の穿刺などほとんど全ての手技に局所の痛みを伴うと考えて差し支えない。一方で手技そのものの痛みは手技によって大きく異なる。たとえば血管形成術においてはバルーンでの血管拡張時は痛みを伴う一方で、血管塞栓ではあまり大きな痛みを伴わない(当然、臓器や塞栓範囲による)。膿瘍ドレナージや生検も手技に伴う痛みは最小限であることがほとんどである。

・手技の時間はどの程度か

IVRは手技時間が大きく異なる。例えば生検や膿瘍のドレナージであれば30分程度で終わるが、複雑な血管形成や、BRTOやAVMなどの塞栓手技になる3時間位かかる手技も珍しくない。

・患者の状態

血管奇形などの予定手術ではほとんど既往のない若年成人に対して施行するため、鎮静鎮痛のストラテジーが患者の状態に左右されることはないが、止血に対する緊急止血ではバイタルサインが不安定な状況かもしれないし、門脈系のインターベンションでは肝機能が悪いことも多い。また、肺生検や腸腰筋膿瘍のドレナージでは腹臥位で手技を行う必要がある場合もある。こうした患者の基礎疾患の状況や体位は鎮静の深度に大きな影響を与える。

モニタリングについて

・誰がするのか

術者は手技に集中しているため患者の状態変化に気付きにくい。そのため、鎮静鎮痛の深度を調整し患者の状態をモニタリングする専門の要員を配置することが望ましい。深い鎮静が必要で全身麻酔を必要とする手技であれば麻酔科の協力が不可欠であるし軽い鎮静であれば、看護師でも充分モニタリングが可能である。

・どこでモニタリングするのか

患者のモニタリングは気道管理などの観点から患者の頭側で行うのが原則である。そうすると透視下であれば透視のためのアームが、CTガイド下であればCTの管球がモニタリング担当者の近くに来ることになる。つまり必然的に患者から近い距離でモニタリングを要することも少なくない。しかしそこで必ず考慮すべきは被曝防護である。プロテクターを装着することは当然として、DSAで血管造影をしたり、CTが曝射する際に不用意にアームに近づいたりすることは不必要な被曝を増やすことになるので注意する。また近年は水晶体被曝に対する閾値が厳しくなっているため鉛入りのゴーグルを装着するなどの対策を欠かさずする。モニタリング者は術者として頻繁にIVRの手技にかかわらないため被曝線量の管理の対象になっていないこともあるため安易な被曝は避けるようにする。そのため安定しているなら操作室に出る、など基本的な事項は術者に教えてもらうと良い。

・どのようにモニタリングするのか

基本的に手術室や救急室とどうように一般的なモニタを使用可能であるがCTのガントリをくぐったり、アームが大きく動くことがあるためモニタリングの機器のコード類が巻き込まれたりしないように注意すると良い。鎮静鎮痛を行うために必要な酸素、吸引器、鼻カニューレ、適切なサイズのネーザルエアウェイ、バッグバルブマスクに加えて除細動器や喉頭鏡、気管チューブなどは処置室に必要である。

非薬理学的補助

Czarneckiらは、非薬理学的介入を単独または併用することでIVR関連する痛みを減少させる可能性があるとしている(Pain Manag. Nurs. 12(2), 95–111 (2011). )。具体的には音楽やリラクゼーション療法などだが質の高い検証はされていない。しかしながら、基本的な原則として患者環境や手技のストラテジにおいて患者の苦痛を取れる工夫がないかをまずは考えるとよい。

患者の環境においては上肢を挙上すべき手技(経皮経肝手技など)ではあらかじめ頭の上に上肢を挙げた際に掴まれるハンドルを用意したり、内頸静脈アプローチでの血管内治療であれば顔に覆布が直接当たらないような離被架をセットしたりすることなどが挙げられる。また手技が長くなるようなら手技のポイントごとに足を動かしても良い時間を作るなど声掛けを忘れないようにする。長時間動かずに同じ姿勢でいることは想像以上に苦痛なものであることを忘れない。

手技のストラテジにおいては、DSAにおいて不必要に長い息止めを強いるのを避けるなど基本的な配慮を忘れない。深呼吸や息止めは特に高齢者や状態の悪い患者にとっては強い侵襲である。他には、外頸動脈領域であくびによる体動や不快感での血管攣縮を避けるために浸透圧の低い造影剤を使うことや、多くの場合痛みを伴うエタノールによる塞栓が必須でなければポリドカスクレロールによる塞栓を検討するなど塞栓物質の工夫を検討することなどが重要となる。近年ではVRゴーグルを用いたディストラクションなども提案されており目的に応じて実用可能となる可能性もある(Diagn Interv Imaging. 2019 Dec;100(12):753-762.)

具体的な鎮静鎮痛の戦略

原則的に、実際の手技においては局所麻酔のみで手技を終えられるケースが多い。つまり穿刺部の十分な鎮痛が得られれば、時間も短く、手技のよる苦痛は最小限であることがIVRの強みでもあるため鎮静を必要としないことも多い。しかしいくつかの局面では鎮静や鎮痛を加えることで患者がより快適に手技を終えることができるためいくつかのケースを考えながらIVRにおける鎮痛や鎮静の考え方を検討する。ある研究では鎮静における合併症発生の割合は全体で5%でそのうち重大な合併症は低血圧が最も多かった(Cardiovasc Intervent Radiol. 2001 May-Jun;24(3):185-90)。呼吸障害は中等度の鎮静を受けた1%程度で発生し稀ではあるが入院期間や人工呼吸、死亡を増やすとされており慎重な調整が必要である(Radiology. 2019 Sep;292(3):702-710.)。

・鎮静

痛みが少なかったり局所的かつ短時間の痛みしか伴わない手技であれば、鎮静を第一に考える。全身状態安定している患者であればミダゾラムや、プロポフォールなど施設で使い慣れている薬剤を使用するのがよい。ミダゾラムのほうがプロポフォールよりも作用時間が長いため短時間で終わる手技であればプロポフォールを選択する。ケタミンは用量依存的に幻覚や解離症状や不随意筋運動を引き起こす可能性があり、IVRとの相性が悪い。

一方で鎮静におけるデメリットは意識レベルが下がることで息止めなどの指示に従えなくなることである。息止めができないと経皮経肝手技(胆道ドレナージや門脈インターベンション)や胸腹部の血管内治療(PAVMや腹部止血手技)、胸腹部の生検(肺生検や肝生検)などは難易度が大きく上がるため鎮静によるメリットとデメリットのバランスを検討する必要がある。治療への適性を制限する可能性がある。

他の薬剤として、Dexmedetomidineは軽度の鎮静と呼吸抑制の少なさから、処置時の鎮静に有用となる可能性がある。鎮痛効果が乏しいこと、鎮静による呼吸の協力が得られなくなる可能性があること、効果発現まで時間がかかることなどから、痛みが少なく、長時間の検査において有用である可能性が高い。実際に脳動脈瘤やリンパ管インターベンションに有用であったとする報告が散見されるが質の高い観察研究は乏しい(J Korean Neurosurg Soc. 2014, 55:185-9. Cureus. 2022 Apr 25;14(4):e24466)。

笑気やセボフルレンによる吸入麻酔の有用性を報告した研究は多く見られるが必要な血管造影室は換気体制整えている施設が少なかったり、鎮静鎮痛を手技を行う科で行ったりしいることが多い国内の現状を鑑みると使用している施設は限られると思われる(Korean J Anesthesiol. 2014 Apr;66(4):290-4.)。

・鎮痛

IVRにおける痛みは局所的であることが多いすなわち局所麻酔をまずしっかりとすることが重要である。シース挿入の際の皮膚は当然だが、経皮経肝手技の肝被膜、肺生検の胸膜など、痛みを感じる部位の深さを意識して確実に局所麻酔を行うことで患者の苦痛は大きく減らせる。一方でバルーンでの血管拡張時の痛みやエタノール注入による血管痛や子宮動脈塞栓後の腹痛は局所麻酔ではコントロールできない。その際は痛みの部位を考えて鎮痛の方法を考慮する。例えば四肢の血管形成における拡張時の痛みは拡張時のみの短時間であるため多くの手技で患者に我慢してもらうことが多いが、手技を反復する患者も多いため苦痛が強いようなら神経ブロックによる区域麻酔などを考慮する。エタノールの注入による痛みや子宮動脈塞栓後の腹痛に対してはコントロールに難渋することも多いが手技的に「予期できる」痛みであるため塞栓前から鎮痛薬の全身投与を考慮するなどの対策を取っておくとよいだろう。また、もう一つ考慮するべき要素は痛みの持続時間である。塞栓時の痛みは塞栓物質の注入時のみで非常に短時間である一方で子宮動脈塞栓後の腹痛は1日程度持続する。そのため長時間続く痛みに対しては持続投与を検討し、PCAポンプなどによる自己調整ができるプロトコルを導入するとよい(J. Vasc. Interv. Radiol. 15(8), 801–807 (2004) )。

・全身麻酔はいつ考慮するか

無理をして患者を危険に晒すよりは、全身麻酔に移行したほうが手技も安全に行えたり、手技にかかる時間も減らせたりすることも少なくない。人員的な負担は増えるが、意識レベルが悪く不穏な頭部血管治療、不動化とともに息止めの協力も必要だが患者が非協力的な腹部血管治療、患者の状態が不安定だが腹臥位での手技を要するドレナージ、などは無理をせずに全身麻酔の導入を決断する。小児の血管造影においては手技の痛みがほとんどなくても「何をされているか分からず長時間じっとしていること」自体が大きな苦痛なので全身麻酔で行うことがほとんどである。

  • IVRの手技の特徴に応じた鎮静鎮痛を選択しよう
  • 手技の実施医と全身管理医は別々が良い
  • IVRの手技の特徴に応じた鎮静鎮痛を選択しよう
  • 手技の実施医と全身管理医は別々が良い
  • ・Practice Guidelines for Moderate Procedural Sedation and Analgesia 2018: A Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Moderate Procedural Sedation and Analgesia, the American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons, American College of Radiology, American Dental Association, American Society of Dentist Anesthesiologists, and Society of Interventional Radiology. Anesthesiology. 2018 Mar;128(3):437-479. doi: 10.1097/ALN.0000000000002043. PMID: 29334501.
  • ・Romagnoli S, Fanelli F, Barbani F, Uberoi R, Esteban E, Lee MJ, Nielsen PT, Mahnken AH, Morgan R. CIRSE Standards of Practice on Analgesia and Sedation for Interventional Radiology in Adults. Cardiovasc Intervent Radiol. 2020 Sep;43(9):1251-1260. doi: 10.1007/s00270-020-02536-z. Epub 2020 Jun 17. PMID: 32556610.
  • Martin ML, Lennox PH. Sedation and analgesia in the interventional radiology department. J Vasc Interv Radiol. 2003 Sep;14(9 Pt 1):1119-28. doi: 10.1097/01.rvi.0000086536.86489.82. PMID: 14514803.
  • ・Cashman JN, Ng L. The management of peri- and postprocedural pain in interventional radiology: a narrative review. Pain Manag. 2017 Nov;7(6):523-535. doi: 10.2217/pmt-2017-0024. Epub 2017 Nov 10. PMID: 29125398.
  • Schwartz ZL, Routman JS. Sedation and Analgesia for the Interventional Radiologist. Semin Intervent Radiol. 2023 Jun 16;40(2):240-246. doi: 10.1055/s-0043-57259. PMID: 37333735; PMCID: PMC10275663.

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