閉経期の片頭痛を考える

内科

(架空の症例を元に考察しています)

50代女性、朝から頭痛と嘔吐があり夕方になっても良くならない、という病歴で”片頭痛”というアセスメントを考えたケースがあったとします。症状そのものはいわゆるPOUND(注)を満たしており片頭痛として矛盾しないようです。そうしたらこの患者は片頭痛としてよいのでしょうか。そこで引っかかるのは50代の頭痛を片頭痛としてよいのか、という疑問です。今回は閉経期の女性における片頭痛を考えてみます。

片頭痛はそもそも若年女性の疾患と言っても過言ではありません。10代後半から発症し睡眠不足や天候、赤ワインやチーズなど誘引がある患者が一定数いることが知られています。中でも月経は重要な要因の一つです。月経に関連した片頭痛発作は他の時期に比べ、より重度で持続時間が長く治療抵抗性で再発しやすいことが特徴とされています。(PMID: 20855364)月経に関連した頭痛は月経関連片頭痛として国際頭痛分類(ICHD-3β)において片頭痛のサブタイプとして扱われており、一部の患者ではエストロゲンとの関連が示唆されています。

一方で閉経と片頭痛の関連は様々な経過をとり一定ではありません。月経関連片頭痛の既往のある患者では更年期の片頭痛の悪化がそうでない患者に比べてより顕著であるとされ、自然閉経により片頭痛が悪化する症例は約1/3程度で見られたとされています。しかし更年期障害の治療として行われるホルモン補充療法は片頭痛が22.5%で悪化し、残りが普遍もしくは悪化と治療反応性は一定ではありません(PMID: 10759920)。いずれにしても閉経期に片頭痛は改善するのが通常ですが増悪する患者もいるようです。そのため閉経期の女性に片頭痛という病名はあながち間違ってはないと言えるかもしれません。

しかしここで注意すべきなのはしっかりと「片頭痛の既往があるのか」を確認することです。つまり閉経期に”増悪”はしても”初発”する片頭痛は極めてまれです。若年時に片頭痛の経験がない患者が50代になってから頭痛を繰り返している、という場合は片頭痛という診断を安易につけないほうが無難です。その場合は救急の基本に戻ってSAHなどのcommonな致死性疾患から、場合によってはRCVS、静脈洞血栓症や緑内障発作などのまれな疾患を考慮するのがよいでしょう。

  • 片頭痛は閉経期に増悪する場合がある。
  • 中年初発の片頭痛という診断は危険。
  • 若い頃に片頭痛が認められていたのかをしっかり確認しましょう!

注)POUNDとは

  1. Pulsatile quality(拍動性)
  2. duration 4-72 hOurs(持続時間4-72時間)
  3. Unirateral location(片側性)
  4. Nausea/vomit(悪心嘔吐)
  5. Disabling intensity(日常生活に支障あり)

陽性尤度比
4項目以上 +LR 24(かなり偏頭痛の可能性が高い)
3項目 +LR 3.5
2項目以下 +LR 0.41(偏頭痛の可能性低い)
とする片頭痛によく用いられるスコア(MIcheal et al., 1993. Cephalagia.)

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