救急外来での内反捻挫の診療
救急外来で足関節捻挫はよく遭遇する主訴です。骨折があるかどうか、という視点では全例にレントゲンが必要なわけではなくレントゲンの撮像要否を決めるclinical predicition ruleとしてOttawa Ankle Ruleがよく知られています(注)。
本ルールを検証した文献によると,15,581例を統合したメタアナリシスでは感度98%,特異度32%と報告され、通常私たちが救急外来で診察することの多い受傷後48時間以内では感度99.3%,特異度27.9%とされ高い感度となりました(PMID: 22577506)。
このルールの優れているところは、どの撮像方法を行うかを示してくれるところで、
1,2,5の場合、足関節のレントゲンが必要(通常正面側面)
3,4,5の場合は足のレントゲン(通常正面斜位)
が必要となります。
小児にも妥当性評価がされており、2-16歳を対象にされた研究(PMID: 10530658)や、1−18歳を対象にした研究(PMID: 28363615)においても高い感度を示しました。メタ解析でも5歳以上には高い感度を示しています(PMID: 19187397)。
一方で妊娠中の女性、検査にいけない人(例:頭部外傷や中毒)などは除外されていることに注意しなければなりません。
(ちなみにこのルールの開発者はIan Stiell先生でCanadian head CT ruleなども開発しており救急外来におけるprediction ruleにおける第一人者です)
小児におけるpitfall
ご多分に漏れず、というかこのルールには注意点があり
”「臨床的に重要でない骨折」を評価できるようにはなっていない”
ということです。小児の研究において臨床的に重要でない骨折とされているのは前距腓靭帯付着部のS-H1であったり剥離骨折です。
この前距腓靭帯付着部の剥離骨折というのはやっかいで、通常撮像される足関節の正面や側面では見落とすことが多いと言われます。
50/253(20%)(PMID: 20721721)や26%(PMID: 25036414)の剥離骨折が通常のレントゲンでは見落とされていたとされており無視できない数字であります。さらにレントゲンではわからないS-H1の骨端線損傷も含めれば、レントゲンで骨折がなくても無いとは言いにくい現状です。Ottawa陰性で撮像しない症例にも隠れているという認識が必要でしょう。
これらを検出しようとしたらATFL viewでレントゲンを撮像するのをお勧めします。特に運動強度が上がる且つ骨端線閉鎖前の小学校低学年前後の年代で前距腓靭帯付着部に強い圧痛がある場合は撮像を検討してはいかがでしょうか。
ATFL付着部の剥離骨折は臨床的に重要でない、のか
ではこれらの骨折は臨床的に重要ではない、のでしょうか。国内からの報告では剥離骨折があった子供は怪我のあとに足関節捻挫を繰り返す独立した因子であることが示されています(PMID: 29992464)。一方で機能的なスコアは有意差はなかったとする報告は多く(PMID: 26747077)、あまり神経質にならなくても良さそうです。
では国内の報告は何が影響していたのでしょうか。
これは管理人の意見になりますが、先の国内からの報告は診断後の治療は統一されておらず主治医の最良に任されたことが影響しているのではないかと考えます。
「小児は親の裁量で復帰が判断されることが多く、痛くなくなった、腫れが引いた、などの理由からすぐにスポーツに復帰する例がよく見られます。特に「骨折はなくて捻挫」と言われるとなおさら復帰が早くなりすぎる傾向にあるのではないかと感じています。そうすると靭帯や骨端線の損傷が改善する時間が十分でなく、足関節の不安定性→捻挫の反復という悪いサイクルに入っていってしまうと考えられます。
そのため痛みや腫れの強い捻挫に関してはレントゲンでは異常がなくても慎重な競技復帰とテーピングなどの補助を勧めるとよいでしょう。ただの捻挫であっても復帰時期の助言のために固定して、整形外科を紹介するのも良いかもしれません。フォローアップ先でストレスレントゲンなども検討してくれることもあります。
救急外来では骨折の有無のみに注意が行きがちですが、整形疾患では機能的な予後も重要です。救急医としては知っておいて損はないのではないしょうか。
- 小児にもOttawa ankle ruleは有効につかえる
- 前距腓靭帯付着部の剥離骨折や骨端線損傷は見逃している可能性がある
- 症状の強い捻挫の場合は骨折がなくても、Ottawa陰性でも固定と紹介を検討
引用していませんがまとまったレビューとして
Pediatr Emer Care 2020;36: 248–256
はオススメです。
(注)Ottawa Ankle Ruleとは?
1.腓骨後縁または外側踝の先端から頭側6cmまでの骨の圧痛
2.脛骨後縁または内側踝の先端から頭側6cmまでの骨の圧痛
3.第5中足骨の付け根の圧痛
4.舟状骨の圧痛
5.受傷直後と初期評価時に4歩の体重負荷ができないこと
のいずれも認めない場合、臨床的に重要な骨折はない(=レントゲン不要)とするルール。
(PMID: 8114236)
コメントがありましたらどうぞ 誹謗中傷は避けてください