「アナフィラキシーは原因物質への暴露直後に発症するもの」というイメージは強く、多くの場合は間違いありません。しかし寝ている最中にアナフィラキシーの症状を発症して夜間の救急外来に受診、ということは時々経験します。そんなとき、原因物質の特定に困ってしまいますが遅延型のアナフィラキシーとしてガイドラインにも載っている代表例を2つ紹介します。
サーファーの関東人を見たら納豆アレルギーを疑え!
納豆は大豆アレルギーでなく、納豆の粘りの主成分である ポリガンマグルタミン酸(poly γ-glutamic acid: PGA)が抗原物質となり、摂取後から数時間以降(通常12時間程度)に遅発型アレルギーを起こすことが知られています。2004年に日本から初めて報告されました。(PMID:15148963)
PGAは納豆菌(Bacillus natto)により合成されますが、分子量が大きく腸管から吸収できるサイズにまで分解されるのに数時間かかるため、遅発型アレルギーとなります。納豆摂取から平均9.6時間後の発症とされているため(PMID: 17519580))、夜間睡眠中の発症などもあり得る形となります。
また、納豆アレルギー患者のうち、83%がクラゲに頻回に刺されたことのあるサーファーなどであったことから、クラゲに刺されることで PGAに経皮的に感作された患者が納豆を摂取することでアナフィラキシーを発症すると考えられています(PMID: 24943113)。そのため関東に多く、サーファーなどの多い沿岸地域に多く見られることになります。
逆にPGAは納豆以外にも食品への添加物(クッキー、パン)、スポーツドリンク、化粧品、保湿剤、医薬品などと幅広く使用されているため、既知の納豆アレルギーの患者が誤って摂取する事も考えられます。
診断は大豆のアレルギーではないため納豆のprick to prickでなされる点に注意しましょう。村上水軍は瀬戸内が本拠地なので納豆を食べるサーファーはあまりいませんが千葉や神奈川などには多いようです。
キャンパーがジビエを食べてアナフィラキシーは獣肉アレルギー!
α-Gal(galactose-α-1,3-galactose) と呼ばれる糖鎖に先行感作が成立すると、哺乳類の肉の摂取で、遅発性の蕁麻疹、腹痛、アナフィラキシーなどを生じます。α-Gal 症候群の臨床的特徴は、IgE 依存性ア レルギーであるが一般的な食物アレルギーよりも遅い、摂取から3〜6時間後に遅発型アナフィラキシーを起こすことが知られています(PMID: 32571129)。哺乳類であるブタ、子ヒツジ、ウサギ、ウマ、ヤギ、シカ、クジラなどにα-Galが含まれておりアレルギー症状を起こします。逆に鳥類である鶏肉や鴨などは原因となりません(ただ、カレイの魚卵などには含まれているよう)。
さらに、α-Galへの感作の原因はマダニ咬傷による経皮的感作と考えられており、繰り返しマダニに刺されていると感作され、α-Gal に対する IgE が産生されて獣肉アレルギーを起こすようになります。主に成人で発症します。日本では、日本紅斑熱を媒介するフタトゲチマダニの生息地である島根県をはじめとした中国地方や九州地方の山間部での報告が多いようです。
成人発症で夜間のアナフィラキシーで受診した際は肉類の摂取やマダニとの暴露歴などを聞いてみると良いかもしれません。腹部症状のみだとジビエがダメな体質、としか認識されていないこともあります。アルコールや運動が補助因子としても知られておりまさにキャンパーが外でジビエを食べるシチュエーションそのものですよね。マダニを避けることで症状を和らげることができるとされています。総説も一読してみてください(PMID: 31568928)。
- クラゲ暴露のある納豆接種10時間後のアナフィラキシーはPGAアレルギー
- マダニ暴露のある哺乳類肉摂取3−4時間後のアナフィラキシーはα-Galアレルギー
- どちらも遅延型アレルギーを呈してくるので深夜の受診がありえる
- 少しさかのぼった暴露歴を狙って聞くのが重要!
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